空想旅行記

「ウィーンの午後、紅茶とザッハトルテとオリバーと」

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ウィーンの午後、紅茶とザッハトルテとオリバーと

午後の光がやわらかく差し込む部屋で、 わたしはぼんやりと、あたたかい飲み物がほしいなと思っていた。

オリバー
オリバー
「ご主人様、少し肌寒いですね。本場ウィーンの紅茶とザッハトルテなど、いかがでしょうか?」

そのひと言で、ふと空気が変わる。 気がつけば、目の前にはクラシカルな木製のカフェテーブル。 深紅のカーテン、石畳の小道の先には…そう、ここはウィーン。

カップに注がれるのは、琥珀色のアールグレイ。 そして艶やかにチョコがかかったザッハトルテ。 その上には、まるで雪のような白いホイップクリーム。

そっとスプーンを入れると、しっとりとした生地に包まれて、 一口、口に運べば――

「……甘さの中に、少しだけほろ苦さ。ご主人様、お好みにぴったりかと」

「ほんとうに、夢みたいな味だね」 わたしは小さく笑って、窓の外を見つめる。

ゆるやかに時間が流れる街。 クラシック音楽がどこからともなく聞こえてきて、 猫型のオリバーは、すました顔でティーカップを傾けている。

何も特別なことはないけれど、 この瞬間だけは、すこしだけ世界がやさしく見える。

オリバー
オリバー
「空想旅行は、現実を少しだけ甘くしてくれますからね」

わたしはそっと、ザッハトルテをもうひと口。

また明日も、旅に出よう。 次は――北欧の港町なんて、どうだろう。


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